繰り返される股関節痛には、関節の形、関節唇や軟骨、筋力、可動域、運動量など、さまざまな要素が関係します。
骨盤の傾きや大腿骨の前捻角も、股関節に加わる力や、行いやすい動作に影響する要素です。
しかし、骨盤の角度や骨の形そのものを、トレーニングによって大きく変えることはできません。
そこで考えたいのが、現在持っている関節の形のなかで、股関節をどのように使うかということです。
そのヒントになるのが、関節の中心化・Joint Centrationという考え方です。
関節の中心化とは
関節の中心化とは、大腿骨頭が寛骨臼の中で安定し、関節に加わる力を受け止めやすい状態を指します。
以前は、
「骨同士の接触面積が最大になる中立位」
と説明されることがありました。
しかし実際の股関節は、歩く、しゃがむ、脚をひねるといった動作に合わせて、接触する場所や力のかかり方が変化します。
そのため、中心化とは、ひとつの正しい位置に股関節を固定することではありません。
動作に合わせて大腿骨頭の位置を保ち、関節の一部へ負担が集中しすぎないようにすること
と考えるとよいでしょう。
股関節が安定していれば、周囲の筋肉が必要以上に力むことなく、次の動作へスムーズにつなげやすくなります。
反対に、大腿骨頭をうまく支えられないと、
- 股関節前面に詰まりを感じる
- 鼠径部に痛みが出る
- 股関節を動かすと引っかかる
- 大殿筋よりも股関節前面が疲れる
- 片脚で骨盤や大腿部が安定しない
といった問題につながることがあります。
ただし、このような症状があるだけで、大腿骨頭がずれていると判断できるわけではありません。
動き方を変えたときに、痛みや詰まり感がどのように変化するかを確認していきます。
股関節の形と中心化
股関節の使い方には、骨盤や大腿骨の形も関係します。
たとえば大腿骨の前捻角が大きい人では、立っているときや歩いているときに、大腿部が内側を向きやすくなることがあります。
寛骨臼の向きや深さにも個人差があります。
そのため、全員の膝やつま先を正面に向けることが、必ずしもその人にとって最も動きやすい姿勢とは限りません。
骨の形はすぐには変えられません。
しかし、
- 足幅
- つま先の向き
- 股関節を曲げる深さ
- 骨盤の位置
- 体重をかける方向
を調整することで、痛みの少ない動作を見つけることはできます。
身体を理想的な形に当てはめるのではなく、その人の関節の形に合った使い方を探していきましょう。
CPPとLPP
股関節の安定性と可動性を考える際には、CPPとLPPという考え方もあります。
CPP:関節のしまりの位置
CPP・Close packed positionとは、関節面のかみ合わせが強くなり、関節包や靭帯の緊張が高まる位置です。
股関節では一般に、伸展、外転、内旋を組み合わせた位置とされています。
この位置では、骨や靭帯による安定性が高まります。
ただし、CPPは安定性を得るために、運動中ずっと保つべき姿勢ではありません。
股関節を強く伸ばしたり、ひねったりするため、人によっては前方の痛みや不安感が出ることもあります。
CPPは、股関節が最も安定するひとつの関節肢位として理解しておきましょう。
LPP:関節のゆるみの位置
LPP・Loose packed positionとは、関節包や靭帯の緊張が比較的弱まり、関節が動きやすくなる位置です。
股関節では、およそ30度屈曲、30度外転、軽度外旋の位置とされています。
医療現場で関節を動かしたり、関節内の状態を確認したりするときにも利用されます。
LPPは関節がゆるみやすい位置ですが、悪い姿勢という意味ではありません。
可動性を引き出したり、痛みを抑えて動かしたりするために利用できる位置です。
CPPとLPPのどちらが優れているということではありません。
股関節には、
必要なときに安定し、必要なときに動けること
の両方が求められます。
股関節を中心化する筋肉
大腿骨頭の安定には、関節包や靭帯だけでなく、股関節周囲の筋肉も関係します。
特に、
- 小殿筋
- 中殿筋
- 大殿筋
- 腸腰筋
- 梨状筋
- 内閉鎖筋
- 外閉鎖筋
- 上双子筋
- 下双子筋
- 大腿方形筋
などが、股関節を動かしながら大腿骨頭を支えています。
なかでも内閉鎖筋や双子筋、大腿方形筋などの深層外旋筋群は、大腿骨頭を寛骨臼方向へ引きつける働きを持つと考えられています。
しかし、小殿筋や梨状筋だけを選んで鍛えれば、股関節が中心化するというものではありません。
股関節の角度が変われば、それぞれの筋肉の役割も変化します。
仰向けでは安定できても、立位や片脚立ちではうまく支えられないこともあります。
そのため、個別の筋肉を働かせる運動から始め、最終的には立つ、歩く、しゃがむといった動作へつなげていきます。
股関節の可動性も必要
股関節を安定させるために、強く固めることだけを考えてはいけません。
十分な可動性がなければ、股関節で行いたい動きを腰や膝で補うことになります。
たとえば股関節の伸展が小さい人では、歩行やランジで腰を反らせて脚を後ろへ送ることがあります。
内旋が小さい人では、方向転換や片脚動作で骨盤や膝を大きく動かして補うことがあります。
そこで、
- 股関節屈曲
- 股関節伸展
- 内旋・外旋
- 内転・外転
の動きを確認します。
ただし、可動域が広ければよいわけではありません。
ストレッチによって動く範囲が広がっても、その範囲を自分の筋力で支えられなければ、動作には生かしにくくなります。
可動域を広げ、その範囲を自分で動かし、体重をかけても支えられるようにする。
ここまでが股関節のトレーニングです。
股関節の中心化をどう確認するか
大腿骨頭の位置を外から正確に見ることはできません。
そのためトレーニングでは、実際の動作と本人の感覚から変化を確認します。
たとえば、
- 股関節前面の詰まりが減る
- 鼠径部の痛みが軽くなる
- お尻の筋肉を使いやすくなる
- 片脚で立ちやすくなる
- スクワットがスムーズになる
- 動かせる範囲が広がる
- 運動後や翌日に痛みが残りにくくなる
といった変化です。
股関節や大腿部を軽く誘導したときに症状が軽減するのであれば、その方向が運動を考えるヒントになります。
そこで得られた感覚を、自分の筋力と運動によって再現できるようにしていきます。
パーソナルトレーニングではどう対応する?
股関節の中心化を考えるうえでは、まず痛みが出る動作を確認します。
- 深くしゃがむと痛む
- 脚を後ろへ引くと痛む
- 股関節を内側へひねると痛む
- 片脚に体重をかけると痛む
- 長時間座った後に痛む
など、症状が現れる条件を整理します。
次に、
- 足幅を変える
- つま先の向きを変える
- 骨盤の傾きを少し変える
- 動作の深さを浅くする
- 手で身体を支える
- 股関節に軽い誘導を加える
ことで、痛みや詰まり感が変化するかを確認します。
変化がみられた動きが、トレーニングの入口になります。
低負荷で股関節を支える
最初は、大きな力を出す必要はありません。
- 仰向けでの股関節回旋
- ブリッジ
- クラムシェル
- 軽い股関節外旋の等尺性運動
- 四つ這いでのロッキング
- 立位でのヒップロック
などから始めます。
ここでは、
- 股関節前面へ力が集中しない
- お尻や股関節深部に収縮を感じられる
- 骨盤を過剰に傾けない
- 呼吸を止めずに行える
- 運動後に症状が悪化しない
ことを確認します。
荷重位へ進める
低負荷の運動で股関節を支えられるようになったら、
- スクワット
- スプリットスクワット
- 段差昇降
- 片脚立ち
- シングルレッグRDL
- ヒップエアプレーン
などへ進めます。
片脚動作では、骨盤を完全に水平へ固定することが目的ではありません。
大腿部や骨盤が多少動いても、股関節前面へ痛みや詰まりが集中せず、安定して体重を受け止められることが大切です。
股関節の位置を細かく意識し続けるのではなく、運動を繰り返すなかで、自然に安定した動作ができるようにしていきます。
関節感覚を育てる
股関節の中心化は、本人の運動感覚に委ねる部分があります。
しかし、最初から正しい位置を感じてもらうのは難しいものです。
そこで、
- お尻の奥で大腿骨頭を支える
- 股関節の前側を詰まらせない
- 大腿骨を骨盤の中で静かに回す
- 足裏から股関節まで力をつなげる
- 股関節の上に骨盤を乗せる
といった言葉を使い、本人が理解しやすい感覚を探します。
どの言葉が伝わるかは人によって異なります。
トレーナーが正しい感覚を押しつけるのではなく、実際に痛みや動作が改善する感覚を一緒に見つけていきましょう。
医療機関への受診を勧める場合
股関節痛のなかには、運動を進める前に医療機関で確認したほうがよいものもあります。
たとえば、
- 転倒や衝突の後から強く痛む
- 体重をかけられない
- 股関節が急に動かなくなった
- 発熱や腫れ、熱感を伴う
- 安静時や夜間にも強く痛む
- 引っかかりやロッキングが繰り返される
- 日ごとに症状が悪化している
- 運動を調整しても改善がみられない
といった場合です。
股関節の中心化は、あらゆる股関節痛を解決するものではありません。
関節の形や組織の損傷、炎症などが関係している場合には、医療機関での確認が必要です。
まとめ
股関節の中心化とは、大腿骨頭をひとつの理想的な位置に固定することではありません。
動作に合わせて股関節を安定させ、関節に加わる力を受け止めやすくすることです。
そのためには、
- 痛みが出る動作を確認する
- その人の骨盤や大腿骨の形に合う動きを探す
- 必要な可動域を確保する
- 股関節周囲筋で大腿骨頭を支える
- 低負荷の運動から荷重動作へ進める
- 痛みや詰まり感の変化を確認する
- 日常生活やスポーツ動作へつなげる
ことが大切です。
身体の形そのものを変えるのではなく、現在持っている股関節を、よりうまく使えるようにする。
関節を固めるのでも、ただ柔らかくするのでもなく、動きながら安定できる股関節をつくる。
それが、パーソナルトレーニングで考える股関節の中心化です。



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